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column vol.7『スピード感』

投稿日時:2025年2月
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机を叩くテスト

人それぞれ、自分のペースというものがあると思います。これは精神テンポと呼ばれており、子供の頃に定着して、高齢になるまであまり変わらないとされています。精神テンポを計るに方法の一つとして、以下のものが紹介されていました。

精神テンポを調べる方法として,歩くスピードや,「タッピング」が利用される。タッピングとは,自分にとってちょうどよいテンポで机をたたいてもらうテストだ。

タッピングは簡単そうなので、さっそくやってみましょう。

いざ実践

叩いた間隔を計測するために、音楽の分析にちょっとだけ使った、「BPMカウンター 人力テンポ測定器[1]」を使います。これはタップ各回の計測値がミリ秒単位で表示されるので、この数値を後で読み取ります。画面を見ずに3分間タッピングを行い、平均値を結果とします。なお平均値を表示する機能はないので、LibreOffice Calcに入力して計算しました。全68個ものレコードを手入力したので、間違っていないかヒヤヒヤ。

すると結果は2605.882353(ミリ秒)と出ました。単位を秒にして、小数点以下6桁で丸めると2.605882秒です。

外れ値は検証しないとね

計測が終わりました。それでは続きを読んでみましょう。

精神テンポを調べる方法として,歩くスピードや,「タッピング」が利用される。タッピングとは,自分にとってちょうどよいテンポで机をたたいてもらうテストだ。8割ほどの人が,1回たたくのに0.4秒~0.9秒かかるといわれている。

1回たたくのに0.4秒~0.9秒。ちょっと待って、そんなに早いんですか?
これを踏まえて実験結果の平均2.605882秒を見てみると…なかなかの外れ値が出たということがわかります。ちょっと気になったので、どれくらいおかしな値なのか、検証してみることにしました。まずヒントとして、サンプルのある領域にボリュームゾーンがあることがわかっています。これに似たモデルとして正規分布を思い出しました。正規分布は中央値が最も多い山になっていて、そこから離れていくと左右対称な釣り鐘型に減少していくというモデルです。多くの事例で正規分布に従うことが知られていて、当たらずも遠からずな推測ができると思います。

意外とあり得る結果

以下の計算では、小数点以下7桁目で四捨五入して丸めた数値を使っていることに注意してください。また正規分布の累積確率を計算するために高精度計算サイト[2]を利用しました。

多くの人でタッピングをした結果が標準正規分布に従うと仮定し、さらに中央値を
 (0.4+0.9)/2=0.65秒
と仮定します。0.65±0.25秒の範囲に入る確率が0.8になるのはパーセント点が1.281552のところらしいので、標準偏差1σシグマ
 0.25/1.281552≒±0.195076秒
の範囲だと推測できます。そこで小生の計測結果は平均2.605882秒だったので、
 (2.605882-0.65)/0.195076≒+10.026256σシグマ
という値が出ました。標準分布を仮定するとこの計測結果(またはこれを上回る結果)が出る確率はわずかに
 5.843209×10-24
これはおよそ1711がい3884京人に1人いる割合。

1711がい3884京人というのは、地球(一つあたり約82億人)をざっと20兆8706億個ぶんくらいです。ちなみに天の川銀河にある星の総数は2000億~4000億個[3]とされているので、天の川銀河の星では足りません。何気なくやった実験一つで、銀河系を凌駕してしまいました。さすがに人間の所業とは思えません。

そこで、今度は指標を対数スケールにしてみます。対数スケールは巨大な値になるときでもなんとかしてくれることがよくあります。また、人間の感覚量は、しばしば入力の対数に比例することが知られているので、人間相手の実験には向いているかもしれません。

0.4と0.9の間には2.25倍の開きがありますから、間をとるには最小値から√2.25=1.5倍の数値を基準にするのがよいと思われるので、基準値は0.6秒を採用します。計算してみると
 0.6×1.5=0.9、0.6×1.5-1=0.4
になります。上で求めたように基準値×1.5±1の範囲に入る確率が0.8になるのはパーセント点が1.281552のところなので、標準偏差1σシグマ
 1.281552√1.5≒1.372160(倍)
と出ました[5]。小生の結果の2.605882秒は基準値0.6秒の約4.343137倍になるので、
 log1.372160(4.343137)≒4.641786
基準値から標準偏差の4.6乗ほど離れているわけで、つまり小生の結果は+4.641786σシグマのズレとみることができます。これが出る確率は
 1.727053×10-6
になり、およそ579021人に1人いるくらいの割合で済みます。十分現実的な数値になりました。