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レンズ沼浚渫工事 vol.1「ローデンストックRodenstock R 0030」

投稿日時:2024年6月
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老舗の眼鏡メーカー・ローデンストック

ローデンストックは、ドイツで1877年に創業した光学機器メーカーであるところの眼鏡メーカーで、眼鏡愛好家なら一度はかけてみたい名門です。

老舗らしく歴史の中でいくつもの発明をしており、反射防止コーティングやヨーロッパで初の調光レンズ、世界初のバネ蝶番「ローダフレックスRODAFLEX」などなど。
リムの下半分をなくして、代わりにナイロン糸で吊る「ナイロール」もローデンストックの発明という情報を見たことがあるのですが、これはソースが出てきませんでした(公式をウェイバックマシン[1]で見てみてもアーカイブされていなかった)…。

各界の著名人も使用しているとのことで、有名なものとして、映画マトリックスで主人公ネオがかけていたサングラスは、ローデンストック製フレームにオリジナルのレンズを組み合わせたものだった[2]というトリビアもあったり。

ちなみにカタカナでは表記揺れがあり、「ローデントック」「ローデンシュトック」と二通りあります。どちらでも通じますが、眼鏡製品についての文脈では「ローデンストック」表記が多いようです。
本サイトでは眼鏡あるいは会社そのものを指すときは「ローデントック」、その他の光学機器を指すときは「ローデンシュトック」とします。混在していますが、ご了承ください。

眼鏡が必要になったあの日のこと。

何故めがねをかけているのか…それはおよそ1年と半年くらい前のことになります。夜の道を歩いている時に、ふと左目で見た像がぼやけているのに気づきました。右目は変化がなかったので、しばらく気づかなかったようです。そのときは目が疲れているのかと思って、目を擦ったり市販の目薬を入れてみたりしたのですが、あまり効果はありませんでした。

しばらく目を騙しだまし使っていたのですが、気がかりだったので眼鏡店で視力検査を受けてみることにしました。すると結果は左が視力1.0で近視+乱視、右が視力1.5で遠視とのこと。左の乱視と右の遠視はごく軽いものなので残し、左の近視を補正するレンズを作ることと相成りました。

実のところ、以前から何かしらの眼鏡をかけてみたいと思っていたので、近視が見つかって小生は「眼鏡をかけてよい大義名分」を得たわけです。

眼鏡店にある、円形のレンズを差し替えられるあの変な眼鏡をかけて、左目から見たとき、右とほとんど変わらないクリアな世界が広がったのは今でも覚えています。

もともと写真レンズでローデンストックの名を知っていましたから、ローデンストックを指名買いしました。評判に違わない良いフレームだったので、後悔はしていません。あとで他店のスタッフにそれとなく訊いてみると、「あれはいいやつだけど年配の人がよく選ぶメーカーだから、お客さんはもっと若々しいデザインのものにしたら?」というようなことを云われましたが。

R 0030の特徴

ここで小生の選んだモデル「R 0030」を観察してみましょう。ローデンストックのラインアップでは「エクスクルーシブExclusiv メン」シリーズにあたります。まずフレームの色は素材を生かしたチタングレー。レンズは大きく視野も広いです。リムはスクエア型で上だけにあるナイロールモデルです。ブリッジも細いので、主張しすぎることはありません。テンプルはすらりと伸びた直線的デザインで、蝶番の後ろにダイアモンドカット模様とローデンストックの”R”マークが彫刻されています。

特筆すべきは、なんといってもローデンストックが誇るバネ蝶番「ローダフレックス」。普通の蝶番は全開になったところで止まるのでテンプルの弾性で押さえつけられるわけですが、このローダフレックスは顔の形に合わせてさらに開き、蝶番に組み込まれたバネが適度な力で押さえてくれます。この掛け心地は世界最高とも言われているとか。

ローデンストックは光学機器メーカーという話をしましたが、レンズはベーシックなモデルの東海光学製「ベルーナHX-AS UV NRC」です。高性能なものも選べたのですが、もし度が変わったときにまた注文しなくてはいけないので、あえての選択。ベーシックなモデルではありますが、プラスチック製、屈折率1.60、片面非球面、紫外線カット、反射防止コーティング付き。レンズの性能は決して悪くありません。

ちなみにレンズの度は右が0、左が-0.25です。片方が0で補正なしですから、モノクル[3]をかけるのもありかもしれません。

実際にかけてみて。

補正後の視力は左右ともに1.5になり、視野はクリアになりましたが、使い始めてから少しの間、立体感が強調されたような感覚を覚えました。左の視力が下がっていたのを補正して右とそろえたのですから、立体視の能力も改善したのでしょうが、しばらく違和感の原因になりました。そして自分の身長が少し伸びたような、視点がわずかに上方向にずれたような感覚もありました。眼鏡レンズは前のめりに傾斜がついていますから、おそらくそのためでしょう。眼鏡店のスタッフからもしばらく足下や階段に注意するようサジェスチョンを受けました。

これらの違和感は3日くらいで解消しましたが。

スタッフがばっちりフィッティングしてくれましたし、チタンフレームは軽く、また前述のバネ蝶番の効果もあり、重さや圧迫感はほとんど感じません。ここはさすがローデンストックといったところ。

眼鏡で気になるルックスですが、あまり主張のあるデザインではないためか、まるで以前から眼鏡をかけていた人物であったかのような反応が返ってきたりしました。第三者から見て違和感を感じなかったということは、まぁ似合っているということでしょう。

総合レンズメーカーとしてのローデンシュトック

ここまで眼鏡のことを紹介してきましたが、ローデンストックはレンズメーカーでもあります。冒頭で触れた表記揺れですが、レンズ分野では「ローデンシュトック」が使われることが多いようです。

眼鏡レンズのほかにも、産業用レンズ、光学用精密工作機、医療用光学機器などもあるとのこと。さすがに業務用製品は滅多にお目にかかれませんが。そもそもローデンストックの主力は、ほとんど眼鏡と関連製品ですからね。

カメラ愛好家に「ドイツ三大レンズメーカーは?」と問えば、「カールツアイスCarl zeiss」「シュナイダー・クロイツナッハSchneider Kreuznach」の名前は出てくるでしょう。もう一つはローデンシュトックとされていますが、前二つに比べ(カメラ愛好家からの)知名度は下がるようです。例えば写真用レンズ「シロナーSironar」「グランダゴンGrandagon」、引き伸ばし機用レンズ「ロダゴンRodagon」「ロゴナーRogonar」は聞いたことのある人もいるのでは? ……えっ、ない?さいですか……。

まぁローデンシュトック製のライカ判レンズはごく少数しかないので、しかたない面もあるでしょう。前述のシロナーやグランダゴンは大判カメラ用レンズですしね。そんな珍しいローデンシュトックの写真レンズですが、小生は2本所有しています。グランダゴンN90mmF6.8、それとスプリングカメラ「シトネッテCitnette」のレンズ「トリナーTrinar7.5cmF2.9」です。
この二つを紹介するのは、長くなりますからまた別の回にして、今回はここまでとしましょう。